2016年4月7日の夜、TVアニメ『クロムクロ』の第1話が放送されると、いつものようにアニメファンがSNS上に集まり、リアルタイムで感想を述べ合う“実況”が始まった。
「あれ? これGLAYだよね」「マジで!? そんなわけないじゃん」「このメロディはGLAYだよ」「クレジット出た。GLAYだ!!」
軽快なビートを刻む「デストピア」に、即座に反応するSNS。もちろんGLAYが『クロムクロ』のOPテーマを担当することを、事前の発表で知っていた者もいただろう。しかし今になってログを読み返してみると、視聴者の多くが驚きの興奮状態にあったことが伝わってくる。
「すげぇ」「ホンモノだ!」
さて今回、筆者は54thシングル「DEATHTOPIA」をめぐり、HISASHIに話を聞く機会をいただいた。そこで印象的だったのが、「(「デストピア」は)あえてGLAYの特徴である8ビートとマイナーメロディを、TERUの最も得意なキーでやろうと思った」という発言だった。彼は今回のタイアップを通じ、GLAYのHISASHIとして初のアニメ主題歌制作であるからこそ、自分たちらしさをより重視した。「長くやっているとどうしたってバンドのカラーが出る」という言葉の裏には、デビュー23年目の重みによる自信が滲んでいたように思う。
「岡村天斎監督とはお互いに目を合わさないほうがクールなものを作れるのではないかと話し合いました。監督が曲とオープニング映像がぴったり合ったときほどつまらないものはないとおっしゃるタイプの方だったので」
続けて発せられたこの言葉も興味深い。これは決してHISASHIがアニメ制作サイドをないがしろにしたという意味でも、その逆でもない。むしろ個性をぶつけ合ったときに生まれる何かに賭けようという、クリエイター同士の熱い野心の現れだ。通常、アニメファンはOPテーマやEDテーマに“アニメに寄り添った”楽曲を求める。しかし最もGLAYらしい楽曲「デストピア」は熱烈な歓迎を受け、7月以降も新OPテーマ「超音速デスティニー」が歌われることが発表されると歓喜の声が広がった。
「迎合ではなく、変化を」
GLAYは2014年に20周年を迎えて以降、まるでこれが合言葉のように積極的にあらたなゲストミュージシャンを起用したり、気鋭の映像作家とMVを作ったりしてきた。この点についてHISASHIは、「この20年で変わってはいけない部分を知ったからこそ、それ以外のところを変えていくことによる化学変化を楽しめているんじゃないかな」と語っている。
今回の『クロムクロ』の一件は、そんなGLAYのキャリアの中の「変わらない部分」が、改めて浮き彫りになったケースだったのではないだろうか。SNS上の「やっぱりGLAYはGLAYだな」「久し振りに聴いたけどやっぱりカッコいい!!」という声が、何よりの素直な意見だ。またHISASHIは『クロムクロ』に対し、「恋愛における怨念ってここまで強いものなんだ。人間の想いって、時を超えるものなんだな」と感想を述べている。これは図らずも、GLAYの音楽性も時を超えて在り続けていることと一致する。今回のタイアップで、GLAYは自分たちのファンだけでなく“深夜アニメ”というフィールドにも音楽を届けた。その結果、GLAYの音楽は20年前と変わらぬ敬意をもって受け入れられたのである。
一方、長年のGLAYファンは嬉々として初のアニメ主題歌に取り組むHISASHIの姿に暖かい感動を覚えたことだろう。彼が古くからのアニメフリークであることは周知の事実であり、今回の制作には念願が叶った側面があることも知っている。今シングルがHISASHIの作詞・作曲で固められ一色に染められたのは、そんな彼の熱をメンバーやスッタフが汲み取ったからだとも捉えているはずだ。
新OPテーマ「超音速デスティニー」もまた、実にGLAYらしいギターリフが鳴り響く、セクシーなビートロックに仕上がった。7月からの放送で、再び世間にどんな反応が起こるのか。それはぜひ自身の目で確かめてほしい。