(C)クロムクロ製作委員会

プロデューサー/P.A.WORKS代表取締役

堀川憲司

― 今まで青春群像劇や働く女の子などを題材にした作品を数多く手がけられたP.A.WORKSさんが、15周年記念作品にロボット、メカアクションを選ばれたのはファンの方たちにとって驚きだったと思います。

アニメーションにはいろいろなジャンルがありますが、王道である、いわゆるロボットモノをいつかは作ってみたいと思っていました。ただP.A.WORKS立ち上げ当初はスタッフが少なく、3Dセクションの規模も小さかったので、まだ戦力が揃っていなかった。それがやっと挑戦できるところまできたかなと。でも『クロムクロ』が15周年の節目に重なったのはたまたまなんです。昔から「黒部ダムにロボットを立たせたい!」と言い続けていて(笑)、今までいろいろな場所で蒔いていた種がようやく芽を出した感じです。

― スタッフの皆さんに企画を伝えた時の反応はいかがでしたか?

まず3D班は喜んでいました。今までのP.A.WORKS作品の3Dは、どちらかと言えば2Dとの融合が主で縁の下の力持ち的な仕事が多かった。それが今回はロボットをはじめとして3Dがメインになるシーンもある。大変ですがやりがいを感じていると思います。また女性スタッフも積極的に参加してくれているんですよ。今、P.A.WORKSでは何本か企画が並行して進んでいるのですが、まずはスタッフに「どれに参加したい?」と選んでもらいます。意外にもロボット、特に男の子たちの熱いドラマが好きな女性スタッフが多く、積極的に手を上げてくれました。

―『クロムクロ』では黒部ダムが舞台として登場します。先ほどのお話にもありましたが、堀川さんは黒部ダムにどんな想いがあるのでしょうか?

映画や小説、いろいろなメディアで取り上げられていますが、黒部ダム自体がひとつの物語なんですよね。「今の日本にはこれが必要なんだ!」という強烈なメッセージに、当時大勢の人が相乗りをして突き進む。そこには尊い犠牲もたくさんありましたが、熱い想いを持って同じ目標に向い、あれだけの建造物を7年で完成させた。その象徴の建造物として好きなんです。「山奥にこんな巨大なものが!」と、雄大さにも圧倒されますが、それ以上に黒部ダムにはロマンを感じますね。

― 戦後から高度成長期にかけて、黒部ダム以外にもいろいろなところに同じような“熱量”がありました。

そうですね。戦後からだんだんと国力をつけて、経済も急激に成長して多くの人が明るい未来を描けた。もちろん現在と比べればいろいろな制約、例えば長男に生まれたら家業を継がなければいけないなど、ある程度将来に対して縛られるものがあったと思います。それでもみんなで成長が約束された未来に進もうという時代の大きな流れがありましたし、黒部ダムはその時代に「俺たちはスゴイことをやり遂げるんだ」ということが提示されたと思うんです。逆に今の時代は大きな上向きの流れが無い中で、個人が自由な分、自分で考えて行動して未来を切り拓いていかなければならないんですよね。

― 確かに、これから先どうなるのかビジョンが見えない部分も多いです。

そういう時代の中で若い人たちが明るい未来を描けるか、それこそ黒部ダムのように「それは熱いぞ」と言ってもらえるロマンある大きなものを提示できるか。過激で攻撃的な発言にみんながワーッと乗っかるのではなく、自分自身が面白い、そのためだったら頑張れると思えるものが必要だと思うんです。『クロムクロ』で言えば主人公・青馬剣之介時貞がそれを示せるか。作品を見終わった時に、見た人たちが自分の物語を思い描けるかが重要だと思っています。

― 堀川さんがオリジナル作品を手がけられる際、毎回テーマを決められていますが、今回掲げられたものは?

先ほども言ったように、“作品を見てくれた方に対して未来の物語を提示すること”です。作品を通して「こういう未来があるんですよ」というのではなく、アニメーションをきっかけにして、見てくれた人がそれぞれに自分の未来の物語を描くことができる作品でありたい。今は将来に対して漠然とした不安を抱えている人も多いと思うんです。そんな時にどうやったらポジティブな物語が生まれてくるんだろうと考えていて、『クロムクロ』では全話数を通して前向きな気持ちになれるような物語を描くことができればと思っています。

―『花咲くいろは』をはじめP.A.WORKS作品には、同じような想いが込められていると感じます。

P.A.WORKSが15周年を迎えて、新しい事業やいろいろな企画を立ち上げていますが、根本にあるのは“アニメーションを作り続けたい”ということ。ただそれは今までのように丁寧に作品に向き合うだけでは足りないと思うんです。作り続けるためには必要とされること、作品に何らかの価値がないといけない。

― その価値とは?

見てくれた人々が、作品を通して自分の生き様、これから先どう進んでいきたいかを物語として描ける、想像できるようになることですね。日々その場の状況に流されるのではなく、停滞した今を変えたい、自分が変わりたいという気持ちがあることじゃないかと思います。もちろん楽なことばかりではないし、苦しいこともたくさんありますが、目標があればそこに進んでいける。それが生きる力、人生を楽しめる力のひとつになるんじゃないかなって。僕は、人生に物語は必要だと思っています。冒険譚、成長譚は決して楽なことばかりではない。でも自分の冒険譚を楽しく描くことができれば面白いじゃないですか。作品を見てくれた人がどこかに共感できて、将来に不安はあるけれど、前向きな気持ちで自分のシナリオを描いていくことができる。『クロムクロ』がそのきっかけになってくれれば嬉しいですし、今後もそんなアニメーションを作り続けたいなと思っています。

― 堀川さんと岡村(天斎)監督と聞くと、『メダロット』を思い出す方もいると思います。これまでも岡村監督はP.A.WORKS作品の絵コンテを担当されていましたが、監督として組まれるのは初めてですよね。

そうですね。『メダロット』以降、岡村監督の作品を拝見していると要求しているハードルが徐々に高くなってきていると感じていたんです。その点『メダロット』はユルかった(笑)それこそP.A.WORKS立ち上げの頃は、岡村監督の要求に応えられる力はまだついていなかった。ロボットモノに挑戦するのと同じで、15周年という節目にきて今ならそろそろ監督のオーダーに挑戦できるかもしれないと思い、お声がけさせていただきました。岡村監督は多くを語る方ではないので、具体的にどの部分に興味を持っていただいたのかは聞いていないのですが、「黒部ダムにロボットを立たせたい」というひと言には魅力を感じていただけたみたいです(笑)。

― 堀川さんから見て岡村監督はどんな監督でしょうか?

女の子はかわいく描けるし、熱いものは熱く描ける。なによりアニメファンが求めるものを理解している。監督としてはもちろん、アニメーターとしても優秀な方です。また現場でできることできないこと、スタッフのカロリーコントロールも意識してくださるので、安心して現場を任せられます。僕が見たいもの以上のアニメーションを作ってくれると信じています。

―『クロムクロ』ではキャラクター原案がなく、キャラクターデザインを石井(百合子)さんが担当されています。『花咲くいろは』や『TARI TARI』のようにキャラクター原案を別のイラストレーターの方などには依頼せず、石井さんにお願いされた経緯は?

石井さんにキャラクターデザインをお願いしたいと言われたのは岡村監督なんです。石井さんが描くキャラクターは、スーパーリアルにも振らず、それでいて人間らしい動きがちゃんとある。アニメーションのキャラクターとして見ていて気持ちがいいし、ちょうどいいバランスなんですよね。また画の幅も広くて、何でも描ける方。女の子がかわいいのはもちろん、サブキャラクターのおじさんにも愛がある。おじさんキャラが好きなんでしょうね。『クロムクロ』では学校から研究施設までいろいろな場所が舞台として登場するので、サブキャラクターの数も多いんです。でも石井さんならどのキャラクターも魅力的に描いてくれる。監督もそんなところに惹かれたのではないでしょうか。

―15周年記念作品のキャラクターデザインということで、石井さんも緊張されたのではないでしょうか?

もちろん僕らには分からない重圧はあると思います。オリジナル企画でキャラクター原案もない。しかも岡村監督で15周年記念作品。ただ石井さんはすごく真面目な方で、先のことをいろいろ考えて仕事をされている。いろいろ分かった上で引き受けていただけたと思うので、岡村監督同様に安心しています。

― シリーズ構成は『Another』や『有頂天家族』などでもご一緒された檜垣(亮)さんが担当されています。

まずロボットモノということで、軍事的なことはもちろん、科学的な要素も入れたいと思っていたんです。僕にはそういった知識が全然ない。構成力がある檜垣さんならば、セリフの中に自然とそういったロボットものに必要な要素を組み込んで物語を動かしてくれる。しっかりと形に仕上げてくれるんです。オリジナル作品の場合毎回そうなのですが、僕はテーマ的なことを伝えて、「こんなシーンが見てみたい」という駄々っ子みたいなことしか言ってません。それを面白いアニメーションに仕上げてもらうのは、岡村監督と檜垣さんをはじめスタッフのみなさんにお任せしています。

― 制作現場のお話でもうひとつ。『クロムクロ』では3Dで作られるものが多いと思いますが、実際に作業を進められていかがですか?

計算外のことが起きることも多々ありますが(苦笑)、ロボットの戦闘シーンに関しては最後まで踏ん張ってみようと思っています。銃やビームを使うのではなく、肉弾戦に近い戦闘。個人的に巨大なロボットが地上で戦った時、周りの建物や自然にどういう影響を与えるかを見てみたいんです。今回は富山を舞台にしていますので、散居村の田んぼの中で戦ったらどうなるんだろう? って。そんなことを考えるのは田舎の会社だけかもしれませんけど(笑)。ただ3Dは『SHIROBAKO』の「第三飛行少女隊」の時もそうだったのですが、作画より工数が見えづらいんですよね。このシーンを3Dでやるのにはこれだけの人と時間が必要だということが、やってみないと分からないこともある。またどこまでも修正できてしまうので、つい時間をかけてブラッシュアップしてしまうんです。

― 初のロボットアクションですから手探りな部分もあると。

そうですね。手探りな分、岡村監督のセンスで鍛えてほしいという気持ちがあります。スタッフには監督が感じるロボットアニメーションの気持ちよさを全部吸収して、技術として覚えてもらいたいなと。それと作画では表現が難しかったことにも挑戦したいんです。やはり作画の場合、商業アニメーションだと枚数制限もある。ロボットの重量感を出すためには枚数を必要とするのですが、作画だと難しいんですよね。特にロボットのデザインが複雑だと、1日にほんの数枚しか動画が描けないんです。でも3Dであれば、ゆっくりとした動作や人型ならではの呼吸をするような動きも、作画よりも向いている。昔、理想としていて、いつかやってみたいなと思っていた巨大ロボットの表現が可能になったんです。大変でも最後まで諦めずにやりきりたいですね。

― そういうところも含めて注目してもらいたいと。

P.A.WORKSが制作するロボットモノなので、牧歌的な作品なんじゃないかと思われている方もいると思います(笑)。もちろんP.A.WORKSらしさはありますが、今までとは違った面もお見せできると思いますので、期待してください。




シリーズ構成

檜垣 亮

― 『クロムクロ』の企画に携わることになったのは、どんなきっかけだったのですか?

『Another』のラインプロデューサーの相馬(紹二)さんから「実は今、P.A.WORKSでオリジナルのロボットモノをやろうという機運が高まっておりまして…」と相談されました。

― その時はなんと返答されたんですか?

「やめておいたほうがいい!」でした(笑)。実は脚本家になる前はゲーム業界におりまして、何本かゲームを作ったんです。それでロボットを3DCGで動かすことの難しさ、大変さはよく知っていました。3DCGをメインに据えた作品をやったことがない会社(2012年時点)が、いきなりオリジナル作品で3DCGのロボットを主役にしてやりきれるのか、と老婆心ながら忠告をしたわけです(笑)。ただ、正直に言うと、ロボットモノという題材はかなり心を惹かれました。自分はロボットに乗りたくて理系に進んだ人間でしたから。でも引き受けるかどうかはちょっと考えさせてほしいと(笑)。

― ちなみに檜垣さんがP.A.WORKS作品に参加されたのは『Another』が最初ですが、元々は『精霊の守り人』(※)からの繋がりですか?

※2007年に放映された神山健治監督作品。檜垣氏は神山監督と共同で脚本を担当。アニメーション制作はProduction I.Gで、P.A.WORKSは制作協力として参加した。

そうですね。『精霊の守り人』の副監督を吉原(正行/現P.A.WORKS作画部長)さんが担当されていたんです。その縁で『Another』の時に声をかけていただきました。そこから『有頂天家族』を経て『クロムクロ』になるのですが、企画スタートは『クロムクロ』が先。堀川(憲司/プロデューサー・P.A.WORKS代表取締役)さんもインタビューでおっしゃっていますが、15周年記念作品になったのはたまたまなんです。それこそ森見(登美彦/『有頂天家族』著者)さんじゃないですけど、いつから始まっていつまで15周年作品をやっているんだって(笑)。

― 脚本作業はどんなことからスタートされたのでしょうか。

最初に決まっていたのは“オリジナルでロボットアニメ”ということだけでした。堀川さんからは「黒部ダムがロボットになるというのを考えたんですけど」と提案されましたけど(笑)。ダムがロボットになったら水が溢れてしまいますけど…じゃあ水を凍らせて、それが溶ける前に戻ってこないといけない『ウルトラマン』方式はどうですか?  とか。最初はそんなネタみたいなことを言ったりもしていましたね。

― そこからどう今の形になっていったのでしょうか?

岡村(天斎)監督が“蘇った侍”という案を出されて、それをとっかかりにして組み上げていきました。まあプロットなどの打ち合わせで、岡村監督の第一声は決まって「さて、どうしよう?」なので(笑)、「これどうですか?」「こういう案もありますよ」といろいろアイディアを出しつつ形を整えていった感じです。ただ岡村監督の作るフィルムには絶対的な信頼を置いているので、自分としては監督の目指すものを汲み取って、物語を組み立てることを目指しました。監督が「うん」と言わなければフィルムにならないですからね。

― “蘇った侍”以外でキーになったことは何かありましたでしょうか?

これも岡村監督からですが「今までのロボットモノとは違うものにしたい」ということですね。具体的には若者が兵士となって戦うわけでもなく、ビームを使ったような派手な銃撃戦もない。もちろん戦闘シーンはありますが泥臭いというか、ある意味P.A.WORKS作品らしいかな。まあ詳しくは見てからのお楽しみということで(笑)。

― ちなみにP.A.WORKSさんというアニメーション制作会社には、どんな印象を持たれていますか?

フィルム作りにおいて非常に真摯。『Another』や『有頂天家族』でも感じたことなのですが、監督の要求を支える現場があるのは強みだと思います。それはアニメーターを育てるということをずっとやってきた堀川さんの功績でもある。クオリティを保ちながらこれだけの作品数をまわせるのは、優秀なスタッフが支えているからだと感心します。あとは何と言ってもオリジナルをやろうという気概があることが素晴らしいなと。今までやったこともないのに、いきなり3Dでロボットモノに挑戦しようというのですから(笑)。でもそのチャレンジ精神は大切だし、知らないからこそできるフィルムは絶対にあるんです。

― では最後に楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。

『クロムクロ』はまぎれもなくP.A.WORKSのフィルムなんですが、今までのP.A.WORKSオリジナル作品とは一線を画していると思います。少しだけ具体的に言うと、まず物語のうねりがあって、そこに飲み込まれていくキャラクターたちにカメラを据えている。抗えない大きな流れの中からキャラクターたちを見ていく作品です。そういう意味ではP.A.WORKSの新しい境地を開拓したフィルムであり、次のステップに進むための重要な布石として今後重要になるであろうと感じていますので、どうぞお楽しみに。




キャラクターデザイン・総作画監督

石井百合子

― 『クロムクロ』の概要を聞かれた時どんな第一印象を持たれましたか?

初めて企画を知ったのは、確か『凪のあすから』の作業をしている頃だったと思います。「ロボットモノで主人公が侍のオリジナル作品を作ろうと思うんです」と聞いて、「え!? ロボットと侍?  侍がロボットに乗るの?」と軽くカルチャーショックを受けました。でもその時はまさか自分が参加するとは思っていなかったので、「楽しみにしています!」と返事をしたのを覚えています(笑)。

― その後、石井さんにキャラクターデザインのオファーがあったと…。

堀川(憲司/プロデューサー・P.A.WORKS代表取締役)さんからお声がけいただいたのですが、「監督の意向で、キャラクター原案はなしで石井さんのキャラクターでお願いできませんか?」と言われた時はポカーンとしました。原案が無く一からキャラクターをデザインするのは初めて。しかもロボットと侍…まったく想像できませんでした。

― そこからどうやってキャラクターを作られていったのでしょう?

岡村(天斎)監督をはじめ、スタッフの方たちからキャラクターのイメージを聞きつつですね。ただ打ち合わせを重ねて徐々に作り上げていくというよりは、シナリオを読んで最低限のオーダーや方向性を聞いたあと、まずは一回描いてみる。そこから岡村監督の要望を取り入れながら作り上げていきました。

― キャラクターを描かれるうえで何か指針はありましたか?

そこまで多くはなかったですが、剣之介に関しては岡村監督から「少年マンガに出てくるキャラクターのような雰囲気が出ればいいな」と言われていました。自分が趣味で描くと真逆の少女マンガ風というか、もう少しイケメンにすると思うんです(笑)。それをあえて野蛮な荒くれ者のような感じに寄せるように気をつけましたね。

― 特に難しいと感じた部分はどこでしょうか?

今まではキャラクター原案を担当された方の世界があり、その世界に近い画をアニメのキャラクターに落とし込んでいくことがほとんどでした。でも『クロムクロ』では自分の世界でキャラクターを作らなくてはいけない。その部分が一番大変でしたね。そもそも自分のオリジナルの画というものを認識して描いたことがあまりないんです。もちろん癖はあるので自分の画の世界観もきっとどこかにあるんでしょうけど、今まではそれを意識して描いていなかったですし、キャラクター原案さんのように自分を代表する画もない。自分の画とはどんなものなのか改めて探るのが苦労しました。

― それは意外でした。昔から意識的に“自分の画”は出さないようにされていたのですか?

最初からまったく無かった訳ではないんですよ。20代の頃、特にアニメーターになる前までは落描きをしても“自分の画はこうである”みたいなものが荒削りなりにあったように思います。でも仕事をはじめて、いろいろな方のデザインや作監さんの画にあわせて描いていくうちに、徐々にそれが薄れていった感じですね。でも今回は自分の画にしなくてはいけない。『クロムクロ』では、元々持っていたけど仕事をするうちに少しずつバラバラになってしまった自分のピースを、もう一度集めて形にするところから始めました。

― 今までのP.A.WORKS作品とはスタートが違ったわけですが、実際に作業をされてみていかがですか?

まだ絶賛作業中ではあるのですが(笑)、総作画監督を西畑(あゆみ)さんが一緒にやっていただけているのと、ロボットは3D班の皆さんにお任せな分、キャラクターに集中させてもらっています。またキャラクターデザインに関しても最初の機軸ができあがれば、あとは原案がある時と同じなのでそこまで苦労はしていないですね。ただ自分の中でSF、ロボットモノの要素がほとんどなかったので、パイロットスーツなどを着ているキャラクターに関しては少し時間がかかりました。

― SF的な要素はどうやってご自身の中に取り入れられたのでしょうか?

まずヴィジュアルコンセプト・メカデザインを担当された岡田(有章)さんが作られたイメージ案があり、それを元に作画作業的にバランスが取れる所を探りました。岡田さんのイメージ案から引き算や足し算をしていった感じです。あとは定番ですけどSF映画を観たり、SFを題材としたゲームのアートブックなどを読んだりしました。普段だったらあまり手に取らないような画集も買ったりして、とてもいい刺激になりました。「世の中にはこんなに絵が上手い人がいるんだ!  世界って広い!!」って(笑)。

― では最後に作品を楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。

『クロムクロ』では、初めて一からキャラクターデザインをさせていただいているので、いろいろなキャラクター描写に挑戦したいと思っています。また自分がデザインしたキャラクターたちが、岡村監督の画コンテや檜垣(亮)さんのシナリオによってより魅力的に描かれているので、自分としてもそれを画面に出していきたいなと。特に岡村監督の画コンテは刺激になるというか、本当に面白いんです。キャラ表ではつかみ取れなかったシチュエーションや表情が画コンテにいっぱい詰まっている。あれを見てしまうと「こちらも頑張ろう、この面白さを伝えたい!」って思ってしまうんですよね。たぶんそれはほかのスタッフさんも同じだと思います。P.A.WORKS15周年記念作品と銘打たれるとちょっとプレッシャーにもなりますが(笑)、ぜひ楽しみにしていてください。




青馬剣之介時貞役

阿座上洋平

― 『クロムクロ』では主人公・青馬剣之介時貞を演じられますが、ご自身のキャリアとして初の主役なんですよね。

はい。しかも初めて名前のある役で、それがP.A.WORKS15周年記念作品の主人公。マネージャーさんから「決まった!」と連絡をもらった時は、いろいろな想いが頭の中を駆け巡って10秒くらい絶句しました。実はオーディションの時にはそこまで詳しいキャラクターの資料がなくて、いつも以上にキャラクターを想像しなければならなかったんです。サムライ言葉を話す青年…いろいろと考えたのですが、もう思い切って素のままの自分を出したんです。それを認めてもらったようで嬉しかったですね。

― 時代劇はお好きなんですか?

それがほとんど見たことがなくて…あと歴史にも疎いんです。剣之介に決まったはいいけれど、どうやって役作りをしていいか分からなくて。それに第一話の脚本をいただくまでに半年くらい時間があったんです。「どんな侍なんだろう」「もしかしたら自分の知っている歴史とは違うのではないか?」とモヤモヤとした日々を過ごしていました。とりあえず宮本武蔵の「五輪の書」を読んだりしましたね(笑)。

― それはずいぶん高いレベルからいきましたね(笑)。実際に脚本が届いて、剣之介はどんなキャラクターでしたか?

粗暴で不器用で猪突猛進。裏を返すと真っ直ぐなキャラクターです。自分に似ていると思う部分もありますが、根本に真っ直ぐな信念があるところは違うなと。自分の根っこはひねくれ屋なんですよ。

― そうなんですか!? ニコニコ生放送(TVアニメ「クロムクロ」ニコニコ生放送〜推して参る!)を見ていると、そういう風には感じませんけど…。

そんなことないんですよ。ほかの皆さんとあわせようとしているんですが、不器用でなかなかあわせられなくて。また結構世の中を疑って掛かる見方をしているところがあって、性格は捻じ曲がっていると思います(笑)。剣之介はまず自分の信念があって、そこから外れているから「お前とは違うんだ」という否定の仕方なんです。でも自分は天邪鬼で「そんな意見は俺とは違う」という否定の仕方。同じセリフでも剣之介と自分との感じ方にズレがあったんです。近づいたと思ったらまた離れられてしまうことが何度もあって、演じるのが難しかったですね。

― そんな剣之介を演じられるうえで心がけていることは?

剣之介は常に真っ直ぐで、周りに嫌われるくらいの粗暴さもあり、「自分のやるべきことをやる」という固い信念も持っている。でもその中には孤独感もあるんです。堅い信念を持っていると同時に人間らしさもある。そのバランスには気をつけてお芝居をしています。

― アフレコ現場の雰囲気はいかがですか?

優しい方ばかりで本当に素敵な現場です。初めての主役ですから最初は皆さんからどういう風に見られているんだろう?  きっと孤独なんだろうなと思っていたんですよ(笑)。でも皆さん温かい言葉をかけていただいて、少しずつ馴染めるようになっていきました。

― ヒロイン白羽由希奈を演じられるM・A・Oさんの印象は?

M・A・Oさんは本当にたくさん作品に出られていて、自分としては雲の上の存在。最初は話しかけたいけどおこがましくてできないと、そわそわしていたんです(笑)。それに物静かでアフレコ現場でも台本に入り込んでいることも多いんですよね。でもニコ生やゲーム好きという共通点から会話を積み重ねて、自然に話せるようになっていった感覚があります。その感覚を演技に乗せたいと思っています。

― 『クロムクロ』はロボットアクションにも注目ですが、阿座上さんが好きなロボット作品は?

あまり見てこなかったんですよ。どちらかというと自然が大好きで、ロボットには冷たい印象がありました。でも最近いろいろなロボット作品を見るようになって分かったことは、ロボットはただの乗り物ではないということ。キャラクターと死線をかいくぐり、物語が進んでいくうちに必要不可欠な存在になっていく。友達とも違うし恋人でもない。不思議な存在というか…。自分と同じ時を刻んできた、手巻き時計みたいな感じに近いのかもしれません。クロムクロもそんな感じです。

― では最後に、作品を心待ちにしている方にメッセージをお願いします。

『クロムクロ』は世界観が壮大でいろいろな要素があります。それこそひとつひとつの要素で一作品ができるくらい。それが複雑に絡み合って、重厚な物語になっています。個人的には、剣之介がどう変わっていくか、また剣之介が周りにどういう影響を与えていくかというドラマの部分も見てもらいたいですね。




オープニング主題歌「デストピア」作詞・作曲

HISASHI(GLAY)

― 第一話、第二話が放映になりオープニング主題歌「デストピア」も流れました。まずは二話までご覧になった感想をお聞かせいただけますか?

第一話は剣之介の登場シーンが衝撃的でしたね。ナイスガードでした。第二話はいよいよ物語が動き出し、クロムクロの戦闘シーンもあって一気に惹き込まれました。

― 特にグッときたポイントはどこでしょうか?

ひとつは物語の舞台である富山県を大切にしているところです。僕らはライブなどで訪れたことがありますが、人によってはあまり馴染みのない場所かもしれません。でも作中に黒部ダムをはじめ、富山の街並みが何度も登場すると興味が出てくると思うんです。また物語やビジュアルからも富山県を大切にしていることが伝わってきました。GLAYも地元を大切にする気持ちを常に持っているのですが、それと同じような感じを受けましたね。あとはクロムクロの脚かな。

― 脚ですか!?

ロボットアニメを観る時、必ず脚の動きに注目するんです。脚がどう動いているのか、歩き方や足首の動き、移動した時の地面の崩れ具合を見て「あ、そこまで重くないんだな」とか(笑)。

― マニアックな視点ですね(笑)。

自分もそうなんですけど、アニメファンって物語やキャラクターのほかに、細かいディテールも気になると思うんです。どんなに物語が面白くても、細かいディテールがしっかりしていないと冷めてしまう部分がある。でも『クロムクロ』は、自分が言うのもおこがましいですけど「これは本物だ」と安心しました。

― 「デストピア」はHISASHIさん初のアニメタイアップ曲になりましたが、オファーの話を聞かれた時どう思われましたか?

自分やGLAYの楽曲は架空の作品、それこそゾンビ映画(※1)のテーマだったりを想定して作ったものも多いんです。今回オファーをいただいて嬉しかったのは、自分たちが架空の世界を題材として作ってきた楽曲が、アニメとようやく線で結びついたことですね。

(※1)「G4・IV」に収録されたHISASHIさん作詞・作曲の『彼女はゾンビ』は、「MVをフルアニメで作りたい」というHISASHIさんの強い希望により、ミュージックアニメーションビデオが制作された。

― 岡村(天斎)監督とはどんなお話をされたのでしょうか?

岡村監督とお話をした時に「クロムクロ」や「黒部ダム」、“黒”という言葉が強く伝わってきました。実際、監督も自分が作詞作曲を担当した『黒く塗れ』という曲を気に入って声をかけてくれたそうなんです。それこそ最初は「この曲でいいんじゃない?」って(笑)。『黒く塗れ』もタイトルや歌詞はダークに感じられるかもしれませんが、「過去にすがるのではなく、過去を受け止め未来に進もう」というポジティブな曲。その意図を汲んでいただけたのは嬉しかったですね。また今回の「デストピア」というタイトルも“理想郷”(ユートピア)の反対で、とても冷静な言葉だと思うんです。でも未来に絶望しているのではなく、今をちゃんと冷静に捉える。その適度な温度感が『クロムクロ』にはあると感じました。

― 岡村監督との打ち合わせので、思い出に残るエピソードはありますか?

オープニングの89秒という尺を作るにあたって「言葉(歌詞)と画がピッタリ合ってしまうことほど恥ずかしいことはない」と言われていたのが印象的でした。昔のアニメのオープニング主題歌は歌詞と画が合っているものが多かったと思うのですが、その熱さには触れない。それが岡村監督の温度であり『クロムクロ』という作品の温度感なんだと思いました。

― 実際の楽曲制作はどのように進められたのでしょうか?

シナリオや世界観、監督の想いを聞いていたら、自然と“音”になってきたんです。本当に概要を聞いただけで「じゃあBPMはこのくらいで、イントロはこんな感じだな」とすぐに浮かんできました。むしろこのイメージを大切にしたいから「これ以上情報を与えないで!」って(笑)。

― 作品のさわりに触れるくらいでインスピレーションが沸いてきたと。

あと今回イントロからTERUがエレキギターを弾くという、GLAYとしては初めての試みの曲なんです。それも監督と話している時になんとなく画が浮かんできて、こうやったら面白いだろうなって。今までみたいにTAKUROや俺が弾いて始まってもつまらない。せっかくのアニメタイアップなんだから普段では使わないような言葉や新しいハプニングがあったら、みんなハッとするんじゃないかなと。自分の中でも冒険心というか遊び心みたいなものをいろいろと取り入れた曲ですね。

― その中でも特に意識されたことは何でしょうか?

「時を超える想い」や「未来に進んでいく前向きな感じ」など、ポジティブな言葉をチョイスしたというのはあるんですけど、ひと言で言えば“人を想う気持ちは永遠なんだ”ということをメジャーキーで歌いたかった(笑)。自分の中でアニメのオープニング然とした曲で、今も残っているのはこういう感じ、というのを表現できたかなと思います。

― 「愛は時を超えて」という部分ですね。

そうそう。普遍的なテーマであり、最初からそこは揺るがないなと思っていました。ただ、普遍的なものだと自分では分かっているんですけど、今まではどこか気恥ずかしくてここまでダイレクトに書いたことはなかったし、「デストピア」でも恥ずかしいから長々と難しい言葉を使っています。でも「本当はこれが言いたいんだ!」って(笑)。今回『クロムクロ』という作品を通すことによって、素直に書けたんじゃないかな。

― アニメのオープニング主題歌ということで普段とは違った意識もあったと。

もちろん!  アニメソングは強敵なんですよ。僕らもオリコンチャートで負けたことがありますしね(笑)。そのフィールドに自分たちが立つことの覚悟はありました。

― では今までのGLAYでやられてきた楽曲とは違う緊張感が?

ありましたね。曲のイメージはすぐに浮かびましたが、テレビで観てくれた人の耳に残るような曲にしたいなと思っていたので、言葉ひとつにしても、アタックの強いものを選んでいます。

アニメの場合は曲だけではなく、音楽とビジュアルが合わさって初めて完成するもの。第二話でオープニングを見て、自分の選んだ音や言葉は間違っていなかったと感じましたね。

― 「デストピア」はGLAYの新曲として聴く人もいれば、『クロムクロ』のオープニング主題歌として聴く人もいる。観る人、聴く人の環境や立場によって変わってきますよね。

GLAYはじまりじゃなくて、アニメの曲、『クロムクロ』のオープニング主題歌という認識でも嬉しいですね。

― 「デストピア」という曲に関して、メンバーの皆さんの反応はいかがでしたか?

今まで自分が作ってきた、HISASHI節みたいなものは感じてくれているんじゃないかな。まだ曲ができて時間も経っていないので、演奏にいっぱいいっぱいなところもありますけどね(笑)。曲って演奏をしたりライブで歌ったりすることで身体に染みていくんです。10年経って初めて「ああ、こういう意味にも取れる曲だったのか」と思うこともある。それが音楽の面白いところでもあるんです。あとGLAYはメンバー全員が音楽のいちリスナーでもあることが、楽曲制作においてすごく助かっているんですよ。視点のレベルとしては全員が名プロデューサー。それと同時に俺はアニメのいちリスナーであることが今回の楽曲にも繋がったんじゃないかと思っています。

― HISASHIさんの音楽の根底にはアニメやそれにまつわるエンターテイメント、ムーブメントがあるということですか?

そうですね。ロックミュージックと同じくらい、ある部分で言えば、それ以上にアニメには影響を受けています。『Je t'aime』(※2)で押井守監督とご一緒した時は、もう音楽をやめてもいいかなと思ったくらい(笑)。こう言うと同世代のロックミュージシャンには怒られるかもしれないけど、俺らは少なからずアニメの影響を受けた世代だと思います。アニメ作品はもちろん、そこから派生したムーブメントが今でも好きだし、これからどんどんと面白くなっていくんじゃないかな。いろいろなアニメの曲を弾いてネットで公開しているのも、ただ好きだからやっていること。戦略とかではなくいちリスナーの視点なんですよね。

(※2)アルバム「GLAY」の収録曲『Satellite of love』のプロモーション企画から生まれた、押井守監督の短編アニメーション作品。

― では最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。

岡村監督から話を聞いた時、すごく深いテーマだと感じましたし、まだ『クロムクロ』の謎を紐解いている状態。先ほど言ったように自分もみなさんと同じように楽しんでいます。オープニングで「デストピア」が流れて、そこから始まる物語にワクワクしてもらえれば嬉しいですね。




音楽

堤 博明

― 『クロムクロ』をここまでご覧になっての感想をお聞かせください。

まず、第一話を見て、自分の中のロボットアニメのイメージが大きく変わりましたね。事前に設定資料やシナリオを拝見した段階から、熱いバトルと人間ドラマの奥深さは伝わってきましたが、映像と自分の音楽、声優さんの声が合わさった完成話を観ると、より生身の人間っぽさと熱さが感じられ、とても興奮しました。僕もP.A.WORKS作品に参加するのは初ですし、ロボットアニメの劇伴を担当するのも初めて。『クロムクロ』は自分にとっても新しいチャレンジでした。

― 初めてのロボットアニメの劇伴制作にあたって、堤さんが意識されたキーワードは何でしたか?

こだわったのは“男らしさ”ですね。ストリングスの入る曲は低音部を強調できる 楽器編成にしましたし、男性コーラスを重ねる事で壮大さを表現。アクションシーンでは、ロックサウンドも交えてバラエティ感を出していきました。

― 岡村(天斎)監督、若林(和弘)音響監督とは、どのようなやりとりをされたのでしょうか?

直接の劇伴打ち合わせは、おふたりや堀川社長も含めた皆さんでの打合せでした。若林音響監督から岡村監督の意図を汲んだオーダーリストをいただいたんですが……これが1曲1曲、驚くほど詳細なんです。劇伴のオーダーの仕方は 様々ですが、若林さんのオーダーは何分何秒までの細かい指示から、想定するシーンの説明まではっきりと書かれていて、動画は無くとも、フィルムスコアのようなリクエストもありました。

― 映画の劇伴の場合は、すべての映像が完成してからオーダーされることが多いので、映像にぴったり合うように詳細な指示があると聞きますね。

そういうことが多いです。それを、話数の多いテレビアニメシリーズで想定されていることにまず驚きました。キャラクターの心情にも深く踏み込んでいて、受け取った僕も相当気合いが入りました。『クロムクロ』は、剣之介という侍がいたり、由希奈ちゃんたちの学園生活があったり、過去も現代も混じり合っていて世界観そのものの振り幅が大きい。音楽にも全面を表現するバリエーションと奥深さが求められるので、いかに広く視点を持てるか、言うなれば音楽的多重人格になれるかもポイントでしたね(笑)。

― そこで音楽表現として心掛けたことは何でしたか?

先ほどお話した“生身っぽさ”にも通じるのですが、この作品は近未来を扱ったロボットアニメではあっても、あまりSF的なサウンドに寄り過ぎないように、とは心掛けました。オーケストラサウンドやコーラスも含めて、アコースティックな楽器を随所に使い、男らしいダイナミックさと繊細な音作りを目指しました。

― 音色にもかなりこだわられたんですね。

はい。今回の制作のためにヘッドレスギターで有名なスタインバーガーというメーカーの8弦エレキギターを新調しました(笑)。PV第1弾で流れているのが、その音です。

― ギターを新調! 堤さんはもともとギタリストで、世界の民族音楽の弦楽器にも精通されていると伺っていますが、珍しい民族楽器も使われたんですか?

そうですね、 アコースティックな響きは色々と欲しかったので。日本であまりなじみのない楽器でいえば……フィンランドの民族楽器のカンテレと、トルコのサズが特徴的だと思います。カンテレは、とても繊細で響きの美しい金属的な音色が魅力的な小さな琴のような弦楽器。今回は主に由希奈ちゃんの心情を表現する曲で使っています。サズは三味線のように竿が長めで丸い胴を抱えて弾く弦楽器。こちらも金属弦なんですが、カンテレよりは落ち着いていいて豊かな音色ですね。ほかにもサウンドのバリエーションを出すために、楽器ではない音を採り入れたりしています。

― どんな音ですか?

お菓子のラムネが好きで、今回も曲の制作をラムネを食べながらやっていたんです。その時、机の上に貯まった包み紙を捨てようとクシャッと丸めたら、すごくいい音がして(笑)。これは何かに使えないかなと、さっそくそれを録音して、パーカッション に混ぜて使っている曲があります。これがまた、いいアクセントになっているんです、ラムネを侮ってはいけないですね。

― ラムネの包み紙が楽器に(笑)。

はい。『クロムクロ』の楽曲は質感表現にこだわりたかったので、シンセサイザーでの音作りはもちろん、手持ちのギターも含めて、 持っている良い音のものを総動員しています。

― たくさんのこだわりが詰め込まれた劇伴ですが、なかでも堤さんが特に印象的な楽曲はなんでしょうか?

思い入れがあるのはやはり、第二話で初めてクロムクロが出撃したシーンでかかる「クロムクロ、参る!」という曲ですね。6分ある大曲なので、1曲をどう展開させれば曲の中でドラマを作れるかもかなり悩みましたが、メロディーを重ねて厚みを出したり、各楽器の役割を変化させて広がりを出したりすることで、戦いの迫力をリアルに表現できたと思います。 多くの場合長い曲は要所要所が編集されて使われることが多いのに、実際、完成した第二話を観たら「クロムクロ、参る!」はほぼノーカットで使っていただいていたのも嬉しかったですし、映像ともすごくシンクロしていて、いち視聴者として完全に見入ってしまいました。細部にもかなりこだわっているので、ぜひ大きな音で聴いていただきたいです。

― 堤さんもオンエアを楽しみにしていらっしゃるんですね。

もちろん! 本編もそうですが、『クロムクロ』はGLAYさんが主題歌で参加されているのも、個人的にテンションが上がったポイントなんです。ギターや音楽を始めたきっかけは、14歳のときにGLAYさんを聴いて大ファンになったから。最初、GLAYさんが主題歌をやられるとは知らなくて、参考資料にいただいた第二話の仮映像に挿入されていた『デストピア』の音源を聴いた瞬間、「TERUさんの声だ!」とビックリしました。憧れのGLAYさんの曲と自分の曲が同じ作品で共演するなんて、本当に夢のようです。

― 今後の話数で、堤さんが作られたどんな劇伴がアニメーションとシンクロしていくかも興味深いですね。

シーンを想定した以外の部分で、どの曲をどう使ってくださるかも楽しみなんですよ。 オススメしたい楽曲もまだまだ沢山ありますし、今後も物語は多角的に広がっていくので、壮大なストーリーとともに劇伴を楽しんでもらえたら嬉しいですね。




1クール目 エンディング主題歌『リアリ・スティック』

MICHI

― MICHIさんはP.A.WORKS作品とは初めてのコラボレーションになりますが、『クロムクロ』のオンエアをご覧になって、どう感じていますか?

クオリティが高すぎてビックリしています。私は子どもの頃からアニメが好きで、いろんな作品を拝見しているんですけど、映像といいストーリーといいキャストさんの演技といい、私が想像していた以上に素晴らしくて、第一話から一瞬で胸を射抜かれました。そして、トムさんの清々しい口の悪さをもっと聞きたい!  って(笑)。

― エンディング主題歌の『リアリ・スティック』は、第二話からのオンエアになりましたね。

第一話はGLAYさんのオープニング主題歌が最後に流れるのが、すごく映画的で素敵だなと思いながら観させていただいたんですが、第二話でいよいよ私の曲が!  と思うとすごくワクワクしました。3D CGを取り入れたエンディングアニメが、すごく個性的で新鮮でしたし、映像がシンプルなぶん、『リアリ・スティック』という曲を、よりじっくりと聴いていただけるんじゃないかな?  って。とても余韻の残る素敵な映像だと感じましたね。逆にオープニングはとても男らしい。GLAYさんの『デストピア』もすごくカッコいい曲なので、両方が合わさったのを観て、鳥肌が立ちました!

― 最初に『クロムクロ』のエンディング主題歌のお話がきたとき、MICHIさんはどう思われましたか?

「おっ、ロボだ!」とワクワクしました。実はロボットアニメの主題歌を歌わせていただくのは今回が初めてなんです。アニメは大好きですけど、ロボットアニメは今までちゃんと観たことがなかったので……。

― いよいよロボットアニメに関わるチャンスが来た!  と。

はい! さらに制作がP.A.WORKSさんと伺って、設定資料やシナリオを見せていただく前から、「メカアクションを魅せながらも、一方で素晴らしいヒューマンドラマが描かれるに違いない! 絶対に面白くなるはずだ!」とは確信していました。

― 今までのP.A.WORKS作品はご覧になっていましたか?

もちろんです! 最近で一番好きなのは去年の夏の『Charlotte』。波瀾万丈で謎めいたストーリーに夢中でした。『花咲くいろは』とかもそうですけど、P.A.WORKSさんの作品は思春期をテーマにした青春ものが多いので、キャラクターと同年代だった私は、どの作品にもすごく共感できるんです。主人公たちがモヤモヤしてると、「なんでそうなの! もっとこうしなきゃ!」って、私もイライラするくらいのめり込んじゃって(笑)。なので、そんなP.A.WORKSさんの作品に私が歌で参加できるなんて!  とすごく嬉しかったです。

― 『クロムクロ』もヒロインの白羽由希奈が高校2年生。MICHIさんも、つい最近まで高校生でしたから、今回も共感できる部分は多そうですね。

そうなんです! 好きなのに、思春期がゆえにお母さん(洋海)にちょっと冷たくしちゃうところとか。「もっと優しくしてあげてよ」と思うのに、実際、自分もお母さんに同じようにしちゃう。素直になれない気持ちがすごく分かるから、由希奈ちゃんにイラッとしちゃうこともあります(苦笑)。

― 由希奈に自分の気持ちを重ね合わせてしまうんですね。『リアリ・スティック』も由希奈の視点からの曲のように感じました。

はい、由希奈ちゃんの中にある“愛”を演じながら歌わせていただきました。最初に曲をいただいたときは、アニメの曲だけどすごく3次元的というか……歌詞にリアルな“愛”を感じて、ちょっと戸惑いました。とくに、アニメのエンディングでは流れていない2番のDメロには、いろいろな“愛”にまつわる言葉が出てくるんですけど、高校生の由希奈ちゃんらしくないんですよ。でも、シナリオを先まで読ませていただいたら、彼女が『クロムクロ』で経験する、さまざまな“愛”がここに集約されているんだと分かって、すごく納得しました。

― 『リアリ・スティック』の世界観は、『クロムクロ』を観ていくことで理解できるようになると?

そうなんです。作品もどんどん面白くなっていくんですけど、この曲も「あ、このことを歌ってるんだ」と世界が広がっていくんです。第二話にもちょっとヒントが出てきていたし、これからお話が進むともっと歌詞が味わい深くなっていく、すごくP.A.WORKS作品らしい曲だと思います。

― 純粋に楽曲としても、センシティブで意味深い歌詞とメロディーが魅力的ですし、そこにMICHIさんのハスキーな歌声が深みを与えている。とても素敵な曲ですね。

ありがとうございます! あと個人的に、私の今までの曲には必ず、名前の“MICHI”という響きを歌詞に入れていただいているので、みなさんにも探してもらえたら嬉しいなって思います。

― レコーディングで大変だったことはありましたか?

Dメロですね。静かに歌を聴かせるところだし、歌詞も気持ちを強く表現しなければならない言葉が連なっているので、歌の表情、ニュアンスをつけるのにすごく苦労しました。レコーディングのときはまだ映像は出来あがっていないのですが、自分の頭の中で勝手にシーンやキャラクターを思い描きながら、歌いました。

― どんなシーンを思い描いていたんですか?

それが、シングルの通常盤のアニメ描き下ろしイラストと同じポーズ、同じ姿の由希奈ちゃんが夜空に浮かんだシーンが、私の想像にも出てきていたんです。後からイラストを見せていただいて、ほんとにビックリしました!

― 運命を感じますね。

この曲に、由希奈ちゃんが想いのすべてをさらけ出したイメージが、私にもあったんだと思います。私自身にとっても『リアリ・スティック』は、今までの曲では表現してこなかった、シリアスで闇とまでは言わないですが、心の内面の部分を初めてさらけ出した曲になりました。ライブで歌うのが、今からとても楽しみです。

― MVで着ている衣装も、『クロムクロ』の世界ととてもシンクロしているので、ぜひライブでも着て歌っていただきたいです。

黒と赤の和風デザインで、指輪にクロムクロの目をイメージした飾りがあったり、作品の世界観とにすごくシンクロしたお気に入りの1着なので、『リアリ・スティック』を歌うときは必ず着たいですね。この先、『クロムクロ』のお話が進んでいくたびに、この『リアリ・スティック』の聴こえ方もきっと変わっていくと思うので、最後まで物語から目を離さないでくださいね。

MICHI「リアリ・スティック」
発売日:2016年5月18日(水)
発売元:ポニーキャニオン
初回限定盤 PCCG-01524/¥1,750+TAX
通常盤 PCCG-70317/¥1,250+TAX
試聴動画「リアリ・スティック」:https://youtu.be/T3YKH5DgTgY
オフィシャルHP:http://michi-stbe.com/
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/Michi_Stbe




ラインプロデューサー

相馬紹二

― 『クロムクロ』の企画は、堀川(憲司/プロデューサー・P.A.WORKS代表取締役)さんの「黒部ダムにロボットを立たせたい!」というひと言からスタートしたんですよね。

そうですね。確か5年くらい前のことだったと思います。ある日、突然「黒部ダムにロボット立たせたらカッコイイだろ?」と言われ、最初は少し戸惑いました(笑)。自分がラインプロデューサーとして参加することになったのも、「うちでロボットアニメが好きなのは誰?」と言われ、手を挙げたら「じゃあやるか」という感じでした。

― でもP.A.WORKS作品としては初のロボットアニメ。準備期間、スタッフィングも含め、制作が始まるまでもご苦労があったと思うのですが……。

いろいろありましたし今も苦労しています(苦笑)。そもそも「ロボットアニメと言ってもどういう作品にするのか」という部分で、1年以上話し合いを続けていました。うちはどちらかと言えば人間ドラマを多く手がけてきたので、やるならばロボットが存在する世界観で群像劇を描くのが一番しっくりくる。けどロボットがいる世界ってどんなんだ!? そこで展開する物語は? って。あとは何と言っても3DCGですね。

― 今回ロボットアクションを3DCGでやると決められた理由は何だったのでしょうか?

最近はロボットなどのメカをきちっと描けるアニメーターさんは減ってきていますし、そもそも2クールのロボットアクション作品の物量に耐えうるメカ描きを集められるアニメーション制作会社は限られています。一方で以前に比べて3DCGは多くの作品で使われるようになり、老舗の作画ロボットアニメを得意とされている制作会社さんでなくても、ある程度は3DCGでロボットアニメを作れるようになってきました。またP.A.WORKSの3Dスタッフも数が増えてきたので、今だったらできるのでは? と思ったんです。

― 確かに3DCGは以前よりも多用されるようになってきましたが、今までのP.A.WORKS作品で使われていた3DCGとは内容が大きく違いますよね。

そうですね。今までうちの3DCGは車や電車などの乗り物、モブキャラクターや細かい小物、あとは作画の補佐的な側面が大きかったです。ただ今回はクロムクロをはじめとするジオフレームはもちろん、水や爆発、土煙などのエフェクト表現、今まで作画で担ってきた部分も3DCGで挑戦しようと決めていました。やはり戦闘で建物が壊れたりするシーンを作画で描こうとすると、かなり負担が大きくなってしまうのですが、3DCGならば、一回モデリングしてしまえばいろいろとできるかなと。また、今までに無かったロボアニメとして“とにかく戦うときはガチで動かす”ことを重要視しました。かなりバクチな部分もありましたが。

― 3Dスタッフの方たちには最初どう伝えられたのでしょうか?

自分はロボットが好きでないとロボットアニメは作れないと思っているので、まず「新企画はロボットアニメになりました。この中でロボットが好きで3D監督をやりたいと思う人はいますか?」と。そこで手を挙げたのが今回3D監督を担当している春田(幸祐)でした。次に「この企画で求めるのはひとつだけです。最後まで絶対に“できない”って言わないでください」って(笑)。ワークフローからして何も分からない、本当にゼロスタート。たぶん想像以上の物量、それこそ逃げ出したいくらい大変なことになるだろうけど、常にどうすれば問題を解決出来るか最後まで考えて、責任を持って戦えるのなら一緒にやろうと。

― 3DCGの実作業は何からスタートされたのでしょうか?

まずはいろいろな制作会社やCG会社を見学させていただき、お話を伺いました。3DCGを使ったアニメーション制作フローの基礎などを教えていただきました。1話で100カット以上の3DCGカットを管理するにはどういうところに気をつけなければいけないとか。効率的な作業方法、チェック方法、納品方法などもです。そもそも作画と3DCGでは管理方法や考え方が違うので、3Dチームと制作が一緒になって、これまでと意識を変える為の勉強合宿などもしましたね。

― 今までやってきた作品の3DCGとはまったく違うと。

今までだとアニメーターが描いたラフ原画があって、3DCGはそれにあわせて動きをつけていく。どちらかと言えばアニメーターが作った動きに合わせてモデリングを配置していく作業が多かったんです。ただ今回はそれをやめて3Dスタッフが絵コンテを読み解き、レイアウトとモーションを一から作っていく、3Dアニメーターとしてやってもらっています。業界内にはすでに確立された方法ですが、弊社の3Dスタッフにとってはほぼ初めての経験だったので、最初にあがったものは監督から全部リテイクが出ました(苦笑)。そこから監督とは「アニメーターならこうする」という視点で「タイミングの前詰め、後詰め。とか、ここで何コマ溜めて……」と、今まで3Dスタッフが意識していなかった“アニメならではの動き”の概念を、何度もキャッチボールさせて頂きました。
ただ、この工程を踏む為には時間が必要です。
なので、岡村監督に第一話、第二話のコンテは先行して書いて頂き、その中でも戦闘シーンだけ先にあげてくださいと、普段ならあまりしないお願いもして、最も早く3D作業をINさせたんです。それでも第一話、第二話が完成するまでは約1年間かかりましたから。

― 1年ですか!?

ええ、ほぼ丸1年です。そして、第一話、第二話の3DCGをやってみて分かったことは、「この物量と内容はうちの力だけではまったく対応できない」ということです(笑)すぐにその他多数のCG会社さんに「助けて下さい!」とお声がけさせて頂きました(苦笑)

― ラインプロデューサーとしても、3Dの現場コントロールは重要視されたんですね。

3DCGはPCを相手にしている分、これだけの工数と時間がかかると言われるとそれは絶対に必要なんです。根性論は通用しません。なので、如何に早く状況を把握して危険信号が出たら手を打つかに全てがかかっています。そういった意味では一番気を使います。
また、作画面では今回キャラクター原案を立てずに、キャラクターデザインを一から石井(百合子/キャラクターデザイン・総作画監督)さんにお願いし、その石井さんを補佐していただくもう一人の総作画監督を西畑(あゆみ)さんにお願いしています。
その他にもP.A.WORKS作品では初めてとなる美術監督の池(信孝)さんや音楽の堤(博明)さんなどなど、各セクションで力のある方々にも参加していただき、岡村監督には全ての現場をまとめてもらっています。

― ちなみに相馬さんから見て岡村監督はどんな方ですか?

今まで自分がご一緒してきた監督は「こうして!」とやりたいことを明確におっしゃる方が多く、自分たちがそれにあわせてどうすれば監督のしたいことをやれるか、と動く感じだったのですが、岡村監督は、ご自身が考えていることをすぐに言うのではなく、必ずスタッフに逆に「どうですかね?」と問われることが多く、正直最初は自分も含めて戸惑うスタッフも多かったように感じます。しかし、問うと言う事は、それについて考えるという事を求められている訳で、どんどん提案が出来る人間が必要だと思いました。
ただそれ以上に、完成した第一話を見て、岡村監督がやりたいことが明確に見えたんです。こういう絵作りをされたいんだな。という事がスタッフ間で共有されてからは、物事もスムーズに進むようになりましたね。

― でもそれはスタッフにとって緊張する現場ですね。

そうなんです。でも無茶なことをおっしゃるのではなく、現場の力量をきちんと把握されていて、本当にきつい部分はボリュームを押さえていただくこともある。ただ現場としていつもそれに甘えるわけにはいきませんから、できるだけ監督の目指すものに応えていきたいなと思っています。

― では最後にファンの方へメッセージをお願いします。

ここだけの話でコソッとお教えすると、岡村監督がちらっと仰っていたのですが、この作品には裏テーマがあります。でも、今言ってしまうと面白くないので、まだ内緒です(笑)最終話を見終えて、少しでも剣之介や由希奈達と同じ気持ちを感じていただけたら嬉しいですね。それこそが隠されたテーマなので。引き続き、宜しくお願い致します!!

あ、あと3DCGカットはまだまだありますので、お手伝いして頂ける会社様は、ぜひP.A.WORKSの相馬までご連絡ください(笑)。




3D監督

春田幸祐

― 春田さんは『グラスリップ』に続いて『クロムクロ』の3D監督を務められていますが、P.A.WORKSに入社されて何年目になるのでしょうか?

『true tears』の制作が終わったくらいに入社したので、今年で約8年目になります。もともとデザイン系の専門学校に通っていて、そこで3DCGの勉強をしていました。その頃はアニメよりもゲームがメインでしたね。もちろんアニメも好きで、特にロボットアニメ、『機動戦士ガンダム』シリーズや『GEAR戦士電童』などをよく観ていました。

― ゲームもロボットを題材としたものがお好きなんですか?

はい。一番好きなのは『スーパーロボット大戦』シリーズ。あとは『アーマード・コア』シリーズも好きで、ラインプロデューサーの相馬(紹二)や社内のスタッフたちと、一緒に遊ぶこともありました。今はクロムクロ制作中なのでゲームをするタイミングがなかなかないですけど。

― 今回はロボットが好きということで3D監督に手を挙げられたとお聞きしました。

それもあるのですが、実は入社した当時の新人歓迎会で「いつかロボットアニメを作りたいです!」と挨拶をしたんです。それを覚えてもらえたことも、今回に繋がったと思います。

― 実際に『クロムクロ』の企画を聞かれた時、どんな印象を持たれましたか?

「ついにロボットアニメができるんだ!」という嬉しさがありましたね。「黒部ダムにロボットを立たせたい」という堀川(憲司/プロデューサー・P.A.WORKS代表取締役)の発言も「ロマンがある! 楽しそう」って(笑)。ただその後“蘇った侍”“アーティファクト”など、いろいろなことが具体的になってくると、実は相当大変なんじゃないか……って、正直不安も大きかったです。

― 今までP.A.WORKS作品で担当されてきた3DCGとは毛色が違いますよね。

そうなんです。今までは作画がメインにあって、それをベースに3DCGの作業をする、簡単に言ってしまえば作画の補佐的な役割が多かった。でも今回は3DCGメインのカットも多く、レイアウトも考えなければいけない。今までとは作業の仕方、考え方からして違うので、「ロボットアニメってどうやって作るんだろう?」という話し合いからスタートしました。また、いろいろな制作会社やCG会社を見学させていただいたりもしましたね。

― 実際に作業に入られて、特に難しいと感じられた部分はどこでしょうか?

初期の頃はカッコイイと思えるモーションが作れずに悩みましたし、岡村(天斎)監督のイメージに近づけることにも苦労しました。それこそ最初に作った第一話、第二話の3DCGカットはすべてボツ。この2話の制作にほぼ一年費やしたんですよ(苦笑)。実は第一話、第二話の制作が始まってすぐの頃は、岡村監督の絵コンテの動きをただなぞるように作っていたんです。でもただなぞるだけだと動きが平均的というか、メリハリがなくて、本当は動きに緩急を付けなくてはいけなかったんです。監督が目指す3DCGのアクションは、作画的なカッコよさ。作画におけるツメとタメ。いわゆる緩急があるアクションなんですよね。

― 確かに第一話の冒頭から『クロムクロ』のアクションは作画的な動きが感じられました。

そう言っていただけると嬉しいです。3DCGアニメーターはソフト上でモーションをつけていきますが、いろいろな角度から見られてプレビューも簡単にできるので、カッコイイモーションだけを選んでしまいがちなんです。でも作画の場合、1カットにつき基本一方向しかない。そのため常に一番いいレイアウト、一番いい画を考えながら描く。その考えが自分たちに足りなかった部分なんです。

― でもP.A.WORKSさんは作画スタジオでもありますから、そのノウハウはありますよね。

そうなんです。自分たちがいるのは3DCG専門のスタジオではなく、作画スタジオの3D部署。もちろん専門のスタジオに比べて規模で劣ってしまう部分もありますが、作画スタジオの3D部署だからこそできる3DCGがある。本社の作画部長である吉原(正行)にレイアウトについてや、アニメの作画の作り方の勉強会を開いてもらったり、在籍するアニメーターの方たちと意見交換をしたりしました。

― 思考はもうアニメーターですよね。

まさに。絵コンテから「このカットは何を見せたいのか」「どこを切り取ればカッコよくなるのか」と、1カットずつ考えていきました。

― 岡村監督からはどんなオーダーがあったのでしょうか?

それこそ最初は、まずレイアウトをチェックしてもらい、それにOKが出たらモーションをつけていくという、二段階で進めていきました。また参考資料として時代劇や居合の名人の映像など、剣術に関する資料も見せてもらいました。特に居合は決めポーズがしっかりしているので参考になりました。あと大前提として言われたのが“重さを意識すること”ですね。

― クロムクロやジオフレームの“重さ”を感じさせる動きということでしょうか。

簡単に言えばそうですが、ただ重さを意識しただけでは遅いイメージになってしまう。タメるところはタメて、素早く動くところはスムーズに。刀を刀で受け止めた時に少しだけ沈む小さな動きから、次の動作は素早く動かす、相手を刺したとき一瞬タメがあるけど、刀を引き抜く時は素早く。先ほどのメリハリと同じですが、タメ、ツメをしっかり考えて両立させること。重さだけを追求するのではなく“静と動の両立を意識してほしい”というのが監督からのオーダーでした。

― では現場をまとめられる3D監督として、気をつけられていることは何でしょうか?

社内スタッフでできるだけ多くのカットを担当するために、リテイクを少なくすることですね。今までの作品だと細かい打ち合わせをせずにできていたこともあったのですが、『クロムクロ』ではカットごとに綿密な打ち合わせをしないとリテイクが重なってしまい、結果担当できるカット数が減ってしまう。今回は作業に入る前、スタッフ全員にカットに対する共有イメージ、そのカットで大切にすることを細かく伝えるようにしています。

― ではお話を少し変えて……春田さんが感じるロボットアニメの魅力はどこでしょうか?

一番グッとくるのは戦闘シーンですね。それは物語の積み重ねがあってこそですが、観た後で何故か分からないけど熱くなる、気分が高揚するところに魅力を感じます。ただ戦闘が派手というのではなく、セリフの掛け合いを含め、「おおッ!」と思えるロボットアニメが好きですね。

― それは『クロムクロ』にも?

もちろん!  戦闘シーンはできるだけ熱くなれるよう、気持ちいい中割り(※)を意識しています。少しでも変なモーションが入ると、それが一瞬でも「アレッ!?」と思われてしまうので戦闘に集中してもらえるよう頑張っていますね。

(※)原画と原画の間に動画を足す作業のこと。

― では今まで放送された話数の中で一番でお好きなシーンは?

いろいろありますが、先ほども出た第一話の冒頭の雪山の戦闘シーンですね。一番時間をかけたということもありますが、観ていて熱くなれる映像になっているんじゃないかなと思います。もしロボットアニメ好きの一視聴者の立場だったら、地上戦であそこまで大変な近接戦闘をよくやるなぁと思います(笑)。特に3DCGはモノとモノが絡むシーンが難しいので、作るのも大変なんですよね。

― では最後にファンの方へメッセージをお願いします。

『クロムクロ』の3DCGで目指したのは、作画っぽい動きです。中割りやレイアウトのカッコよさを3Dの視点ではなくて、2D的な視点で捉えることを重要視しました。最初は慣れていないこともあり、いろいろと時間がかかりましたが、回数を重ねていくうちに何とかカッコイイモーションをつけられるようになってきたかなと感じています。また物語もとても面白く、それを邪魔しないように、そして逃げずに3DCGを最終話まで作りきりたいと思います。観ていただいた方が少しでも熱い気持ちになれるような戦闘シーンを目指していきますので、最後まで楽しんでいただければ嬉しいです。




ヴィジュアルコンセプト・メカデザイン

岡田有章

― 岡田さんは『人造人間キカイダー THE ANIMATION』で初めて岡村(天斎)監督とご一緒されていますが、まずは今回『クロムクロ』に参加されることになった経緯を教えていただけますか?

某アニメーション制作会社さんの忘年会で「今度ロボットアニメをやるから、よろしく」と声をかけられたのが最初です(笑)。そのときは「そうなんだぁ」くらいだったのですが、まさかP.A.WORKSさんと一緒にロボットアニメを作るとは想像していませんでした。以前『true tears』を観て「なんてすごいアニメを作る会社なんだ!」と感動したのですが、自分はメカ作品を多く担当しているので、縁はないんだろうなと思っていたんです。

― 『クロムクロ』の企画を聞かれたとき、どんな印象を持たれましたか?

ロボットアニメとは聞いていましたが、人が乗り込む巨大ロボと知ったときは驚きました。今まで岡村監督作品のロボットは『キカイダー』『メダロット』、両方とも人間サイズ。でも岡村監督だからきっと大丈夫だろうという安心感はありました。あと打ち合わせで初めて堀川(憲司/プロデューサー・P.A.WORKS代表取締役)さんとお会いしたのですが、堀川さんって背が高くて体格がいいじゃないですか。これは逆らったらヤバイ! なるべく言うことを聞こうと思いました(笑)。

― なるほど(笑)。ヴィジュアルコンセプト・メカデザインの具体的な仕事内容についてお聞きしたいのですが、『クロムクロ』では主にジオフレームのデザインを担当されているんですよね?

そうですね。クロムクロやイエロークラブ、カクタス、武器やコックピット内のデザイン……ソフィーたちのパイロットスーツの原案や黒部研究所、パイロットを認証するシステムも考えました。あとは必殺技かな。

― 必殺技があるんですか!?

いや、考えただけで実際には「スゴすぎて使えない」と言われました(笑)。ラインプロデューサーの相馬(紹二)さんとしては、ジオフレームのデザインにこれだけ時間がかかっているのに他のデザインなんてしている暇はないだろう、と思われていたかもしれませんけどね(苦笑)

― 実際に作業をされていた期間はどれくらいでしょうか?

足掛け3年くらいかな。最初はジオフレーム5、6体くらいというお話だったのですが、最終的にはもっと増えましたね。あとはエフィドルグの母艦内外のデザインなどで、今は3DCGモデルのデザインチェックをしています。

― 岡村監督からはどんなオーダーがあったのでしょうか?

それが特に無いんです。岡村監督とのお仕事は大体そうなのですが、最初に“黒部ダムにある研究所”“蘇った侍”“鬼の格好をしたロボット”というキーワードをいただいて、とりあえず好きに描いてみる。そこから監督と、ああじゃないこうじゃないと詰めていきました。

― ジオフレームの脚は特徴的なデザインになっていると感じましたが、どう考えられたのでしょうか?

シリーズ構成を担当されている檜垣(亮)さんもいろいろと設定を考えられていて、その中に、“ジオフレームは重力を制御して動いている”とあったんです。それなら脚はベルボトム型にして安定感を持たせなくてもいいんじゃないかと思い、今のデザインになりました。いろいろ描いているうちに、こんな機能、こんな設定はどうか? と提出することもありましたね。

― ちなみに一番苦労されたデザインは?

ロングアームです。クロムクロのデザインがほぼ固まって、じゃあそれと違うイメージでとデザインを考え始めたのですが、クロムクロが完成した反動なのか煮詰まってしまって……。自分の中でカッコイイということがゲシュタルト崩壊してしまった。本当にドン底で、今のロングアームになる前はもっと残念なデザインを描いていたんです。

― どうやってそれを乗り越えられたのでしょうか?

ひとえに岡村監督の「これはヒドイね、ヒドすぎるね」という言葉です(笑)。実はそれって監督の褒め言葉なんですよ。逆にカッコイイというのは、あまり気に入っていない。「あぁ、こんなにカッコイイのね…」みたいなニュアンスなんです。わりと最近までそれが分からなくて、あ、じゃあこの方向でいいんだなとスルーしてしまったこともありましたけど(笑)。ロングアームのときは本当に袋小路に入ってしまい、もがき苦しみながら提出したデザインだったのですが、監督に「だいぶヒドくなってきたね」と言われて少し立ち直ることができました。

― 名前の通り2本のアームが特徴的ですが、デザインされる際にはアクションも考えられるのでしょうか?

その時々ですね。ロングアームは長い腕をつけたけどどうしようって(笑)。監督にも「長い腕があるのはいいんだけど、無駄についているだけでは……」と言われて、「じゃあ、後ろの長い手で前転や側転をしながら上から攻撃するとか、トリッキーなアクションで攻撃するというのはどうですか?」と提案しました。採用はされませんでしたけど(笑)。

― ちょっと見てみたい気もします(笑)。実際に映像をご覧になっていかがでしたか?

変なアクションのアイディアを出した本人が言うのも何ですが、まずアクションがカッコイイ! 実は第一話放送前にロボットアクションを繋げた映像を見させていただいたのですが、「こんなのを観たかった!」って。あとは3DCGモーションにメリハリがあって、アニメ的な動きがいいですよね。デザインしている時、ジオフレームはもっと機械的なヌルヌルした動きになるんだろうなと思っていたんですよ。特にクロムクロのデザインは関節を動かすのは大変だと思っていたのですが、上手く処理をされていた。3Dスタッフには頭があがらないです。

― ちなみに岡田さんはロボットアニメのどんなところに魅力を感じられますか?

人が乗れるロボット同士が戦うって、現実にはないこと。それを実現させるのにいろいろなSF的設定を考えるじゃないですか。その設定が大好きなんです。ビジュアル、ストーリーはもちろん“設定萌え”するタイプです(笑)。由希奈(白羽由希奈)が最初にクロムクロに搭乗したとき、首筋をチクッとされるシーンがあります。あれはナノマシンを埋め込んで分子回路を形成しているのですが、その設定はこちらから提案しました。ナノマシン自体は目新しいものではないのですが、剣之介(青馬剣之介時貞)や由希奈には、ジオフレーム・コントロール用の新しい脊髄が作られ脊髄が二重になっている。だから無理やり取り出すことが難しい。たぶんそれを檜垣さんが活かしてくれたのかなって。

― では最後にファンの方へメッセージをお願いします。

今までいろいろなジオフレームが登場していますが、後半になってもいろいろと新しいジオフレームが登場するので、ぜひ楽しみにしていてください。かっこいいアクションに注目していただけると嬉しいですね。




2クール目 エンディング主題歌『永遠ループ』

和島あみ

― 『クロムクロ』2クール目のエンディング主題歌を担当することになったとき、まずはどんな感想をもたれましたか?

最初にお話をいただいたのは、5月の『幻想ドライブ』リリース記念イベント直後で、こんなに早く次が決まってびっくりしました。しかも、作品は『クロムクロ』。「GLAYさんとMICHIさんが主題歌を担当されている、あのアニメだ!」とさらに驚きましたし、2クール目ということで、まずMICHIさんがどういう気持ちで『リアリ・スティック』を歌ったかをちゃんと理解したくて、いろんなインタビューを読ませていただきました。

― 主題歌もよくご存じだったんですね。

もちろんです! GLAYさんは私の故郷、北海道の大スター。私の家族は父も兄も音楽好きで、実家にいた頃に車で出掛けるときは、よくGLAYさんの曲がかかっていたんです。なかでも『ずっと2人で』は大好きな曲です。MICHIさんにもお会いしたことがありますし、偶然にも沖縄出身のMICHIさんの後を北海道出身の私が担当するのも不思議な感じがしています。もちろん同じ北海道のGLAYさんとも、歌でご一緒できて嬉しいです。

― 1クール目をご覧になってはどんな感想を持たれましたか?

ロボットアニメはあまり観たことがなかったのですが、『クロムクロ』はジオフレームの話だけではなく、キャラクターたちの気持ちや人間関係も丁寧に描かれていると思います。戦う場面も肉体がぶつかり合うようなアクションがいいですよね。ロボットアニメに詳しくなくても観やすい作品だと思いました。

― ちなみにお気に入りのキャラクターは?

いちばん好きで、注目しているのは茅原(純大)くんです! 『クロムクロ』は世界観も壮大だし、ジオフレームもたくさん出てくる。そんな現実離れした設定なのに、茅原くんがカメラを回して動画を配信しているのが、とても身近に感じました。そこに「もしかしたら、これは現実?」というリアリティがあるなって。(白羽)由希奈もヒロインなのに素朴だし、言うこともすごく的を射てる。かわいくて愛おしくて、親近感があります。

― 和島さんと由希奈は年齢も近いので、共感できる部分も多そうですね。

そうなんです。1クールを観ていて、クロムクロに乗りたくないと言ってたときの由希奈が、デビューして日の浅い自分に重なりました。私はアニソンシンガーを夢見て、自分の意志で歌うことを望んだので、戦いに巻き込まれていった由希奈とはちょっと違いますが、実際にデビューさせていただいた後も「本当に大丈夫なのかな?」と不安に思うことがあって。由希奈も、「ただクロムクロを動かせるから」じゃなくて、ちゃんとした居場所と理由を欲しがっていた。そんな由希奈の気持ちに、自分を重ねながら観ていました。

― 和島さんは、今年頭にアニソンシンガーオーディションで1万人以上の中からグランプリを獲り、5月には早くもCDデビュー。由希奈があれよあれよという間にクロムクロに乗るようになった感覚と、近いものがあったのではないでしょうか。

そうですね。デビューが決まってから今まではあっという間だったので、「こんな華やかな場所にいさせてもらっていいのかな?」という、戸惑いみたいなものは、感覚として近いかもしれません(苦笑)。

― そんな和島さんがセカンドシングルとなる『永遠ループ』を受け取って感じたことは何でしょうか?

MICHIさんも『リアリ・スティック』は由希奈の目線で歌ったとおっしゃっていましたが、私も『永遠ループ』に由希奈を感じました。サビから始まる歌い出しのところに「もう二度と投げ出したりなんかしないよ」というフレーズがあるんですけど、そこは、まさに由希奈がクロムクロに乗ることを投げ出したくなった時からの流れを感じました。由希奈は強い女の子。さらに決意を固めていくんだろうなって。そういう大切な瞬間を歌えるのは嬉しかったです。

― 和島さんのハスキーな歌声が、エモーショナルなロックサウンドにのって、現状へのヒリヒリした切実さと前向きな疾走感を鮮やかに照らしていますね。

ファーストシングルの『幻想ドライブ』に引き続き、グッドモーニングアメリカの金廣真悟さんの作曲、ebaさんの編曲なので、エモ味がすごいんです(笑)。この曲で描かれている世界には、私もいろんな“ループ”を感じました。悶々と悩み続けて思考がループしちゃうこともあるだろうし、“迷路”という言葉も何度も出てくる。私の中では、テレビサイズでは流れない2番以降の歌詞にも、物語の結末に繋がるヒントがあるような気がしていて……CDがリリースされたらぜひ歌詞を読みながら聴いてほしいです。エモい中に由希奈らしい優しさも意識して歌うのは難しかったですが、とてもいい曲になったと思います。

― 8月のリリースが楽しみですね! では最後にファンの方へメッセージをお願いします。

『クロムクロ』には私もすごく惹き込まれています。それは皆さんも同じだと思うんです。そんな『クロムクロ』2クール目のエンディングで流れる『永遠ループ』が、どのくらいみなさんの心に響いてくれるのか楽しみですし、想いがこみ上げてくるいい曲になったと私も自信を持っています。ぜひ歌詞にも注目して聞いてみてください!

和島あみ「永遠ループ」
発売日:2016年8月10日(水)
発売元:ポニーキャニオン
初回生産限定盤(CD+DVD)PCCG-1530/¥1,667+ TAX
通常盤(CD ONLY)PCCG-70320/¥1,250+ TAX
期間生産限定アニメジャケット盤(CD ONLY)PCCG-1531/¥1,667+ TAX
試聴動画「永遠ループ」:https://youtu.be/myE_Xuf6ln4
オフィシャルHP:http://amiwajima.com/
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/amiwajima




音響監督

若林和弘

― 物語も佳境ですが、まずは『クロムクロ』の企画をお聞きになったときの印象を聞かせいただけますか。

最初、堀川(憲司/プロデューサー・P.A.WORKS代表取締役)さんからは「黒部ダムにロボットが立つんです」と言われ、岡村(天斎)監督からは「とりあえずビームはなしで、戦闘はチャンバラ。あとハラキリ」と反応に困るワードを出されてかなり戸惑いました(笑)。ただP.A.WORKS15周年記念作品をご一緒させていただけるのは嬉しいですし、それにお応えしなければと思っていました。

― 実際の作業に入られたとき、岡村監督や堀川さんなどスタッフの方たちとはどんなことを話し合われたのでしょうか?

いろいろありましたが、超振動ブレードをはじめ登場する武器の材質やジオフレームがどういう定義で動いているかなど、本作ならではの設定についての内容が多かったですね。ジオフレームは体積的な迫力はほしいけど、重力制御しているので歩くときは「ズシンズシン」ではなく、「ズシン」よりももう少し軽い感じがいいとか。言葉にすると難しいのですが……音のアタック音は控えめだけど質量感はほしい、という感じですね。

― かなり細かな音楽メニューも作成されたとお聞きしました。

いつも細かいんです(笑)。いただく脚本や絵コンテには「ここでこういう音楽」とは書かれていませんが、見せたい映像のイメージ、演出などは書かれています。それを頭の中で想像して、このシーンはジオフレームの駆動音と人の足音、風音が鳴っていて、さらにセリフも飛び交っている。それじゃあこういう音楽があるといいなと、自分の中で聞こえてきた音や音楽を書き出していきます。それを基に監督と打ち合わせしながら齟齬があるかないか、イメージとズレていないかを確認しつつ、テンポや雰囲気などをすり合わせて、最終的な音楽メニューにしていきます。その際、音楽を行動につけるのか、客観的につけるのか、主観的な心情につけるのかなども明記しますね。あとは堤(博明/音楽)さんにお渡して、口頭で打ち合わせしながらまとめていきました。作品の内容にもよりますが、通常音楽メニューの作業は丸二日から四日くらいかかりますね。

― 音楽メニューを作られたときは、脚本は最終話までできあがっていた?

まだできあがってませんでした(笑)。ただ今回に関して言えば、岡村監督とは幸い長くお仕事をさせていただいているので、なんとなく目指す方向はこっちだろうな、という思いはありました。でもご本人にそれを伝えると「そんなことしないもんね」と言われまたけど(笑)。

― 『クロムクロ』はキャストさんも多く、幅広い年齢の方がいらっしゃいました。

2クール作品ということでキャストの数も多かったのですが、自分が音響監督をやる作品は、できるだけ年齢層の幅を広くしたいと思っています。年上の人、年下の人、幼い子、年配の方がいれば、そこには社会と同じように自然と気遣いや配慮が生まれる。高齢者は大人の方、若年者は若い子が演じると、声の大小、態度の大きい小さいなど、いろいろなことが実際の収録のときに反映されて、自然な演技に近づくんですよね。

― 今回、主人公・青馬剣之介時貞役の阿座上洋平さんとは初めて組まれたとお聞きしましたが、印象はいかがでしたか?

面白いヤツですよ。結構スペックも高いですしね。ただ調子に乗ることもあるので、そこはピシッと諭しますけど(笑)。年齢は若いのですが、ちょっと昭和っぽいところもあって、どことなく剣之介と似ている部分もある。たぶん岡村監督もそういう部分を感じて選ばれたんじゃないかな。監督は、新人で可能性が見える人がいれば起用したいと言っていて、そんな中で選ばれた人が、想像以上の演技をしてくれると、制作陣のモチベーションにも繋がってきます。そういう意味でも阿座上君をはじめ、初めての人もたくさんお願いしています。

― 若林さんが作品において大切にされていることは何でしょうか?

役者に関して言えば、その人のパーソナルな部分かな。作品の中で事件、現象をいろいろなキャラクターが同じように体験するんですけれども、その反応はキャラクターごとによって当然違います。自分の将来を見つめなおすやつもいれば、自分の殻に閉じこもるやつもいる。同じエピソードでもキャラクターごとに変化がある。でも作品、特に同世代が多い現場では、みんなが同じ方向に行こうとしてしまうきらいがあるんです。台本で言うと、当然1話の中に始まりと終わりがあって、終わりに向かって演技をし出すとダメなんですよ。「こういう結末だから、こう演技をすればいいですよね」という考え方をされると、面白くない。

― ではあまり物語りの先を知らないほうがいい?

僕は知る必要のない役者さんにはストーリーは教えません。資料をできるだけ出さないと、向こうも模索して、考えてきてくれる。そうするとこちらもコイツ面白そうだな、この子を入れると面白くなりそうだなって思いますし、その中からこちらが適材適所にピックアップできればいい。それがベストだと思います。もちろん知っておかなければいけないキャラクターには資料を渡して、「あとでこういうことがあるけど、このキャラクターはそれを分かっていても行動しない」など個人的に伝えますね。

― やはり演じてはいますが、役者さん個人の反応や考え方を大切にされていると。

先ほども言いましたが、役者のパーソナルな部分が生きてこないと、脚本に書かれた反応だけを演じるだけになってしまう。そこにオリジナルの個性が出てこない。ましてやもう一度見返したいと思ってもらうには、役者の個性が反映されていないとダメなんですよね。もちろん役者はいろんな人がいますから、そういうのを全部探ってくる人もいる。でも全部探られてしまうとそれはそれで困る。自分の中で何かしら“芯”を持ってもらわないといけないんですよ。そのうえで、今回の場合だと劇団クロムクロのメンバーになってもらいたい。屋台骨のひとりになるということを理解していただいて、一緒に作品を作っている間は同じチームとして機能してほしいとお願いをしています。

― では『クロムクロ』で若林さんが決められた“芯”は何でしょうか?

2016年に、本当に作品の中の出来事が起きたらこうなる、という感覚は外さないように心がけました。何か事件が起こったとき、茅原のようにずっとムービーを撮っているやつもいれば、自分の将来ばかりを考えているやつもいるし、思ったことをその場で口にするやつもいる。またそれぞれの国によって捕らえ方も違うんですよね。最初は世界各国にジオフレームが降りてきましたが、エフィドルグがクロムクロに執着することで、やがて日本だけの問題にシフトしていく。日本以外の国は、もうこれ以上襲ってこないことが分かると、徐々に別の話題にシフトしていく。でもそれは本当に今っぽい。事件が起きてワーッと盛り上がりますが、次の事件が起きたり、別のイベントがあったりするとすぐそっちに気持ちが移ってしまう。そういうえば先週までやっていたあの事件ってどうなったの? って。岡村監督や檜垣(亮/シリーズ構成)君の中には、現代社会をリアルに描きたいという部分もあったと思いますし、見ていただいている方に想像できる距離感、身近な感じを抱いていただけるようやってきました。

― ちなみに岡村監督はどんな方でしょうか?

人あたりは柔らかいんですが、芯がとても強い。運転はスマートだけど、なんだかんだ言って道を譲らない車みたいな方です(笑)。でも監督だからそういうほうがいいと思いますし、自分もそういう部分は持っています。あと岡村監督は作品のテーマがハードになればなるほど、どこかで緩いシーンを入れたがるんですよね。逆に作品が緩ければ緩いほど、ハードにしたがる。たぶんご自身の中で、脳内か肉体的体感を常に一定に保とうとする方なのです。

― ある意味バランス、ということなんでしょうか。

そうですね。自分も同じですが、重い作品、生きるか死ぬかみたいなアニメーションばかりやっていると自分自身の気も落ちてくるので、たまにギャグ作品をやりたくなるんです。やっぱりシリアスとギャグは適度にあったほうが精神衛生上いいですし、たぶん岡村監督もそのバランスを取っているんじゃないかなって。

― でも一話の中にいろいろなテンションがあると、音楽を付けづらいのではないでしょうか?

芯になる部分を持っていないとダメですね。最終的にどういうものを届けたいか、というところに帰結させるようにする。例えば人は照れ隠しでいろいろなことをやりますけど、照れ隠しをする動機ってなんだろう? と考えたら、真摯に伝えたいから。真摯に伝える姿勢が小っ恥ずかしくてちょっとごまかしたりするです。それであれば“真摯に伝えたい”というのをベースに支えていけば、音響的には成り立つんですよ。

― ベースがあれば一音一句拾ってしまう必要もないと。

もちろん。逆に一音一句拾ってしまうと全部がブツ切れになってしまうし、まとまらない。それにある数を超えると「またどうせこうなるでしょ」と、見ていて疲れてくるんです。映画でもそうなのですが、芯を持っていないとシーンやカットの面白さが目立ってしまい、映画を見終わっても「う~ん、テーマがよく分からなかった」とぼやけてしまう。そうすると面白かった部分の印象が変わってしまうので、セリフで支えられる話なのか、効果や音楽で支えられるのかを、エピソードの構成ごとにこちらが見極めてプランニングしています。シーンによって音楽をガツンと説明的になるくらい勢いをつけて出すということもありますし、その逆もある。常に音楽のつけ方は意味があるように構成していますし、今回に関しても、なぜ前の話数で使った曲をこの話数でも使うのか、ということにできるだけ意味を持たせています。堤さんもそこは感じてくれていると思いますね。

― では最後に、若林さんにとって『クロムクロ』はどんな作品でしたか?

とても面白くて大好きな作品です。これだけバラエティに富んだ作品も久しぶりでした。普通カレーを食べるだけであそこまで盛り上げないですから(笑)。でもそれがOKな作品。ギャグもシリアスも振れるところは思いっきり振っていい、そういう部分を柔軟に楽しめましたし、こういうバラエティに富んだ作品はもっとたくさんあるといいなと思います。いろいろな楽しみ方ができる作品なので、疲れたときに見るもよし、楽しいときに見るのもよし、ぜひもう一度Blu-rayなどで楽しんでいただければ嬉しいですね。